大きな腕の詩 山村暮鳥
大きな腕の詩
どこにか大きな腕がある
自分はそれを感ずる
自分はそれが何處にあるか知らない
それに就ては何も知らない
而もこれは何といふ力強さか
その腕をおもへ
その腕をおもへば
どんな時でも何處からともなく此のみうちに湧いてくる大きな力
ぐたぐたになつてゐた體軀(からだ)もどつしりと
だがその腕をみやうとはするな
見やうとすれば忽ちに力は消へてなくなるのだ
盲者(めくら)のやうに信じてあれ
ああ生きのくるしみ
その激しさにひとしほ強くその腕を自分は感ずる
幸薄(さちうす)しとて呟くな
どこかに大きな腕があるのだ
人間よ
此のみえない腕をまくらにやすらかに
抱かれて眠れ
[やぶちゃん注:太字「みうち」は原典では傍点「ヽ」。十行目「だがその腕をみやうとはするなの「や」、十一行目「見やうとすれば忽ちに力は消へてなくなるのだ」の「や」及び「へ」はママ。]

