ひるめしどき 山村暮鳥
ひるめしどき
麥の穗のかげにかくれた
遠方の市街で
工場の汽笛がだるさうに鳴りだしたので
しよひかごを肩にひつ掛け
ちんとてばなをかみ
そしてあるきだしたおばあさん
おぢいさんもそれをみて
大きな鍬をひつかついだ
おぢいさんは鐵のやうにまだがつしりしてゐるが
おばあさんの腰はもう曲りはじめた
ふたりはあるきながら
畠の靑々とした野菜ものや
さはさはと波立つ麥などをゆびさして
なにかしやべつてゐるやうだ
どこにゐたのか
それを遠くでみつけたこどもがこちらをむいて驅けだした
畦道でぱつたりころんで
みえなくなつたが
すぐもつくりとはねおきて
まへよりはやく
まるで隼の
翼でももつてゐるやうにはしつた
おゝそして自分も
自分をまつてゐる食卓へ
いま晝飯にいそいでゐるのだ

