蟋蟀 山村暮鳥
蟋蟀
記憶せよ
あの夜のことを
あの暴風雨を
あの暴風雨にも鳴きやめず
ほそぼそと力強くも鳴いてゐた
蟋蟀は聲をあはせて
はりがねのやうに鳴いてゐた
自分はそれを聞いてゐた
[やぶちゃん注:先行する「Ⅳ」の「記憶について」で山村暮鳥は「蟋蟀(きりぎりす)」とルビし、「Ⅵ」の最後の「太陽はいま蜀黍畑にはいつたところだ」では「こほろぎ」とひらがな書きした。この「Ⅶ」の「蟋蟀」ではルビを振らない。しかもその声(ね)は「暴風雨」にも「鳴きやめず」「ほそぼそと力強くも鳴いてゐた」のであり、その「蟋蟀は聲をあはせて」「はりがねのやうに鳴いてゐ」るのである。さればこれは私は「こおろぎ」ではなく、「きりぎりす」と読むこととしたい。]

