十字街の詩 山村暮鳥
十字街の詩
„THIS IS THE MANY-TENTACLED
TOWN”
――VERHAEREN――
ここは都會の大十字街
すべての道路はここにあつまり
すべての道路はここからはじまる
堂堂とその一角にそびえた
大銀行をみろ
その窓したをぞろぞろと
ひとはゆき
ひとはかへる
なんにもしらないゐなかびとすら
此の大銀行の正面にてはあたまを垂れ
手をうやうやしくあはせる
ああ都會の心臟である十字街
都會はまるで惡食(あくじき)をする大魚の胃ぶくろのやうに
ここはひとびとをひきつけて
そのひとびとを喰ひ殺すところだ
そこから四方へ草の蔓のやうにのびてゆく街街
つらなり列ぶ家家
何といふ立派なものだ
ああ此のけむり吐く大煙筒の林
此のすばらしさに帽子をとれ
へとへとにつかれながら而も壯麗に生きてゐる大都市
此の中央大十字街
その感覺はくもの巣のやうな大路小路にひろがり
ひろいひろい郊外に露出して顫え
其處で何でもかでも鋭敏に感じてゐる神經
どんなものでもひつ摑まうとしてゐる神經
その尖端のおそろしさよ
[やぶちゃん注:「顫え」はママ。
「„THIS IS THE MANY_TENTACLED TOWN”」「――VERHAEREN――」これは、ベルギーの詩人で劇作家でフランス詩壇で活躍し、ヴェルレーヌやランボーらとともに象徴派の一翼を担ったエミール・ヴェルハーレン(Emile Verhaeren 一八五五年~一九一六年)が、一八九五年に刊行した詩集“Les
Villes tentaculaires”(フランス語・「触手ある都市」)の題名を英訳意訳したものかと思われる。]

