消息 山村暮鳥
消息
はつなつの木木の梢をわたる風だ
穀物畠の畝からぬけでてきた風だ
わたしらの屋根の上を
それはまるで遠くできく海の音のやうだ
その下にわたしらはすんでゐる
魚類のやうにむつまじくくらしてゐる
風はしめやかだ
たかいあの靑空をわたる風だから
時時すういと突刺すやうにつばめなんどを飛ばせてよこす
そしてわたしらをびつくりさせる
わたしらはむつまじくくらしてゐる
わたしらは貧しく而もむつまじくくらしてゐる
わたしらは魚類のやうにくらしてゐる
[やぶちゃん注:太字「つばめ」は原典では傍点「ヽ」。因みに私は山村暮鳥の深層心理に於ける「魚」(暮鳥の詩篇には頻繁に突如一見脈絡もなく「魚」が登場する)の象徴性について精神分析をしてみたい強い欲求を、高校時代から持ち続けている人間である。]