甲子夜話卷之三 28 馬蹄石
3-28 馬蹄石
花戸某の旅より歸るとき、馬蹄石を獻ず。長さ半尺ばかり、小記を添ふ。その文に曰。古へする墨と云名馬あり。その馬の出生は駿河國安倍郡朽澤村なり。名馬の故か、その村より此石出る。これを以て墨を磨り、願書を書けば、何の願も叶はずと云ことなしと言傳しとなり。
■やぶちゃんの呟き
「馬蹄石」この場合は、表面に馬の蹄(ひづめ)のような紋のある蒼黒い色の石を指す。
「する墨」「摺墨」或いは「磨墨」。知られた寿永三(一一八四)年の「宇治川の戦い」で、やはり名馬の誉れ高く、同じく源頼朝から与えられた生食(いけづき)に乗った佐々木高綱と先陣を争った梶原景季の名馬の名。
「出生」「しゆつしやう(しゅっしょう)」。
「駿河國安倍郡朽澤村」「安倍郡」は現在の静岡市葵区の大部分に当たる旧郡であるが、この旧郡域内に「朽澤村」は確認出来なかった。識者の御教授を乞う。一つの候補として同地区の「栃沢」を挙げておく(「朽」と「栃」は如何にも誤り易いからである)。ここ(グーグル・マップ・データ)。
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