飛行機 山村暮鳥 / 「土の精神」詩群~了
飛行機
千草は五つ
はじめて飛行機をみるのだ
それがなんだかわからない
紙鳶かい
首をふる
そんなら、何
しばらくかんがへてゐたつけが
やつとおもひついたらしく
鳥(とつと)よ
いくら自分達が説明してやっても
それは無駄であつた
子どもはなかなかその所信を變へるものではない
なんといつてもそれは
子どもにとつては
怖しくぶううんとうなつて
天空をとんでゆく怪鳥であつた
それでいい
いいではないか
おう、子どもばかりが
ほんとうの飛行機を知つてゐるのだ
[やぶちゃん注:「ほんとう」はママで彌生書房版全詩集版でもママである。彼の次女「千草」は大正七年九月の出生で、この年齢は数えであろうから、本篇は大正一一(一九二二)年の作となる。本「土の精神」詩篇の中で確実に容易に創作年代が特定出来る数少ない詩篇と思われる。因みに山村暮鳥は大正一三(一九二四)年十二月八日に逝去した。
彌生書房版全詩集版。完全相同。
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飛行機
千草は五つ
はじめて飛行機をみるのだ
それがなんだかわからない
紙鳶かい
首をふる
そんなら、何
しばらくかんがへてゐたつけが
やつとおもひついたらしく
鳥(とつと)よ
いくら自分達が説明してやっても
それは無駄であつた
子どもはなかなかその所信を變へるものではない
なんといつてもそれは
子どもにとつては
怖しくぶううんとうなつて
天空をとんでゆく怪鳥であつた
それでいい
いいではないか
おう、子どもばかりが
ほんとうの飛行機を知つてゐるのだ
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なお、この詩の終わった二一九頁(左頁)の裏(右頁)に濃い『畢』の字が上やや左に打たれてあり、左頁が奥附となっている。]