走馬燈 山村暮鳥
走馬燈
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
――走馬燈がまはりはじめた
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
だいじな、だいじな
帽子(ちやつぽ)を風めに
ふきとばされたよ
さあ、たいへん
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
くるりとまくつた
お臀がまつくろけだ
鍋底みたいだ
すたこら、すたこら
ぐるぐる
ぐるぐる
おうい、おうい
おいらのちやつぽだ
だいじなちやつぽだ
けえしてくんろよ
すたこら、すたこら
ぐるぐる
ぐるぐる
それでも風めは
へんじもしなけりや
みむきもしないで
とつとと逃げてく
どうしたもんだべ
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
あんまり
心配しないがよかんべ
鴉が笑つてら
ばかあ、ばかあ
ぐるぐる
ぐるぐる
と云つてちやつぽが
けえつてこねえだら
それこそ
嬶どんの大(でつ)かいお目玉
どうしたもんだべ
ぐるぐる
ぐるぐる
いたずら風めは
浮氣な奴だで
ちよいとだまして
つれてはゆくけど
すぐまた捨てるよ
ぐるぐる
ぐるぐる
それではちやつぽは
風めの野郎と
逃げてつたんかい
そうとはしらなかつた
ああん、あああん
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
泣きながらおつかけた
おつかけながら泣いた
なんちうせわしいことだがな
ああん、あああん
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
たうとうそれでも
ふん捕まへたよ
ふんづかまへたが
帽子はびしよぬれ
どうしたもんだべ
それもそのはづ
溝渠(どぶ)があつたので
飛び越えやうとした時
どうしたはづみか
ばつたりおつこつただ
ぐるぐる
ぐるぐる
風めは薄情で
それをみるなり
どこへか行つちやつた
薄情でなくとも
どうしようもないのだ
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
びしよぬれちやつぽを
頭蓋(あたま)のてつぺんさ
ちよこんとのつけて
にこにこにこにこ
そして言ふのさ
(これでも親爺の
ゆづりのちやつぽだ
親爺の頭は
ほんとにでかかつた
おいらがかぶると
すぽりと肩まで
はいつてしまふだ
それを智慧者のうちの嬶どんが
新聞紙まるめて
つツこんでくれただ
いまもいまとて
ぬれてはゐるけん
かうしてかぶつてゐるまに乾くと
もともとどほりの
立派なちやつぽだ
それにつけても風の野郎め
油斷はなんねえ
いつまた、こつそり
くるかもしれねえ
これは
なんでもかうして兩手で
かぶつた上から
年ケ年中
おさへてゐるのに
かぎるやうだ)
ぐるぐる
ぐるぐる
(これだけあ
子どもに
このまた帽子をゆづるときにも
よく云つてきかせて
やらずばなるめえ)
ぐるぐる
ぐるぐる
(なにがなんでも
無事で
帽子がもどつてよかつた
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるり
ぐるり
ぐ……る……り……
――走馬燈、ぴたりととまつた
[やぶちゃん注:以下の連、
「それもそのはづ
溝渠(どぶ)があつたので
飛び越えやうとした時
どうしたはづみか
ばつたりおつこつただ」
の「はづ」及び「越えやう」はママ。
「すぽりと肩まで」は彌生書房版全詩集版では「すつぽりと肩まで」である。
彌生書房版全詩集版。拗音表記はそのまま採用した。
*
走馬燈
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
――走馬燈がまはりはじめた
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
だいじな、だいじな
帽子(ちやつぽ)を風めに
ふきとばされたよ
さあ、たいへん
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
くるりとまくつた
お臀がまつくろけだ
鍋底みたいだ
すたこら、すたこら
ぐるぐる
ぐるぐる
おうい、おうい
おいらのちやつぽだ
だいじなちやつぽだ
けえしてくんろよ
すたこら、すたこら
ぐるぐる
ぐるぐる
それでも風めは
へんじもしなけりや
みむきもしないで
とつとと逃げてく
どうしたもんだべ
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
あんまり
心配しないがよかんべ
鴉が笑つてら
ばかあ、ばかあ
ぐるぐる
ぐるぐる
と云つてちやつぽが
けえつてこねえだら
それこそ
嬶どんの大(でつ)かいお目玉
どうしたもんだべ
ぐるぐる
ぐるぐる
いたずら風めは
浮氣な奴だで
ちよいとだまして
つれてはゆくけど
すぐまた捨てるよ
ぐるぐる
ぐるぐる
それではちやつぽは
風めの野郎と
逃げてつたんかい
そうとはしらなかつた
ああん、あああん
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
泣きながらおつかけた
おつかけながら泣いた
なんちうせわしいことだがな
ああん、あああん
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
たうとうそれでも
ふん捕まへたよ
ふんづかまへたが
帽子はびしよぬれ
どうしたもんだべ
それもそのはず
溝渠(どぶ)があつたので
飛び越えようとした時
どうしたはづみか
ばつたりおつこつただ
ぐるぐる
ぐるぐる
風めは薄情で
それをみるなり
どこへか行つちやつた
薄情でなくとも
どうしようもないのだ
ぐるぐる
ぐるぐる
ゐなかのおぢさん
びしよぬれちやつぽを
頭蓋(あたま)のてつぺんさ
ちよこんとのつけて
にこにこにこにこ
そして言ふのさ
(これでも親爺の
ゆづりのちやつぽだ
親爺の頭は
ほんとにでかかつた
おいらがかぶると
すつぽりと肩まで
はいつてしまふだ
それを智慧者のうちの嬶どんが
新聞紙まるめて
つッこんでくれただ
いまもいまとて
ぬれてはゐるけん
かうしてかぶつてゐるまに乾くと
もともとどほりの
立派なちやつぽだ
それにつけても風の野郎め
油斷はなんねえ
いつまた、こつそり
くるかもしれねえ
これは
なんでもかうして兩手で
かぶつた上から
年ケ年中
おさへてゐるのに
かぎるやうだ)
ぐるぐる
ぐるぐる
(これだけあ
子どもに
このまた帽子をゆづるときにも
よく云つてきかせて
やらずばなるめえ)
ぐるぐる
ぐるぐる
(なにがなんでも
無事で
帽子がもどつてよかつた
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるり
ぐるり
ぐ……る……り……
――走馬燈、ぴたりととまつた
*]

