窓にて 山村暮鳥
窓にて
うらの窓から見ると
すぐ窓下の庭にあるひねくれ曲つた一本の木
すつかり葉つぱの落ちつくした
それは大きないちぢくの木だ
そこに槇の生垣がある
その外は一めんの野菜畠で
菜つぱや大根が葱もいつしよに靑々としている
その上をわたつてくる松風や浪の音
朝々のきつぱりした汽船の汽笛
みよ雪のやうなけさの大霜を
河向ふの篠やぶでは
鵙がひきさかれるやうな聲をして鳴いてゐる
ふたたび裏庭のいちぢくの木をみると
いままで自分はきづかなかつたが
もうその枝々には
どの枝々のさきにも
みんなおなじやうに新芽の角がいろづいてゐる
此の氷のやうな世界につきだした槍の穗先
あのあらしの中から伸びでて
何といふ強さであらう
此の健康をみろ
此の生の力を
いまこそ自分は自分を信ずる
[やぶちゃん注:二ヶ所の「いちぢく」はママ。
「槇」「まき」。裸子植物門マツ綱マツ目マキ科マキ属イヌマキ Podocarpus macrophyllus であろう。関東以南に植生する常緑針葉高木で、庭木や防風林・屋敷林によく用いられる。]
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