雪景 山村暮鳥
雪景
雪
雪はうつくしい
けれどうつくしいなどと
いつてゐられるうちは
まだいいのだ
大雪の翌日であつた
自分がそれをみたのは
その小屋のかげで
ぴたりとよりそつてゐた
よぼよぼの乞食夫婦を
その婆さんのはうは盲者(めくら)であつた
大雪の翌日であつた
自分がそれをみたのは
そこで
かわるがわる一本の煙管が
くちからくちへと
いつたりきたり
さも美味さうにすぱすぱと吸はれては
紫色のうすいけむりをあげてゐたのを
ふたりはそこの日溜りで
日向ぼつこをしてゐたのだ
雪
雪はうつくしい
けれどうつくしいなどと
いつてゐられるうちは
まだいいのだ
それでもなんでも
雪はうつくしい
雪によつて
すべてのものがうつくしいのだ
おう、あのみすぼらしい乞食小屋をとりまいて
此の世のすべてのいきものの
生くるにまつはる慘めさがあつた
そのひとところに
だが、またそこに
そのみぢめさに
ありとあらゆる美があつた
[やぶちゃん注:「かわるがわる」はママ。彌生書房版全詩集版もママ。
彌生書房版全詩集版。二ヶ所(「煙管」「美味」)にルビが加えられている。
*
雪景
雪
雪はうつくしい
けれどうつくしいなどと
いつてゐられるうちは
まだいいのだ
大雪の翌日であつた
自分がそれをみたのは
その小屋のかげで
ぴたりとよりそつてゐた
よぼよぼの乞食夫婦を
その婆さんのはうは盲者(めくら)であつた
大雪の翌日であつた
自分がそれをみたのは
そこで
かわるがわる一本の煙管(きせる)が
くちからくちへと
いつたりきたり
さも美味(うま)さうにすぱすぱと吸はれては
紫色のうすいけむりをあげてゐたのを
ふたりはそこの日溜りで
日向ぼつこをしてゐたのだ
雪
雪はうつくしい
けれどうつくしいなどと
いつてゐられるうちは
まだいいのだ
それでもなんでも
雪はうつくしい
雪によつて
すべてのものがうつくしいのだ
おう、あのみすぼらしい乞食小屋をとりまいて
此の世のすべてのいきものの
生くるにまつはる慘めさがあつた
そのひとところに
だが、またそこに
そのみぢめさに
ありとあらゆる美があつた
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