春 山村暮鳥
春
わたしの生れた國は雪國で
雪が屋根ほど堆積(つも)る
そしてあかんぼがあちらでもこちらでも
その雪の下でうまれるんだ
春になつてそれが消えてなくなると
もういつのまにか
道路も畑も一めんに靑靑となり
草の莖はながくのび
おかしいほど
ひよろひよろとそれこそ伸び
それをうまさうに食べるのは
その大きな尻をお日樣の方にむけた罰當り馬だと
曲つた腰のその上に
木瘤のやうな手をのつけた老嫗(ばあ)さんの
こんな愚癡をききながらも
わたしの目は目で
どこかの雲雀をさがしてゐる
[やぶちゃん注:本篇は刊本詩集「穀粒」にはないので、彌生書房版全詩集版を用いた。但し、不思議なことに「莖」は底本(新字基本であるにも拘わらず)の用字である。]