笊には米が一ぱいある 山村暮鳥
笊には米が一ぱいある
笊には米が一ぱいある
さつき穀商(こくや)がもつてきたんだ
それが縁先で
その笊の中でひかつてゐる
靈魂(たましひ)もよろこべ
よし四五日で
これはなくなるにしても
とにかく笊には米があるのだ
妻は松ばやしの泉まで洗濯に行つた
そして自分は眠つてゐるあかんぼの蠅を追ひながら
出埃及記(しゆつえぢぷとき)をよんでゐるのだ
そこへ遠くできく海のやうな
おお此の寂しい人間の額(ひたひ)にしみじみと
うちよせる
うちよせる
漣(さざなみ)のやうな松風よ
[やぶちゃん注:太字「あかんぼ」は原典では傍点「ヽ」。彌生書房版全詩集版では「緣先」が「椽先」、「出埃及記(しゆつえぢぷとき)」のルビが「しゆつえじぷとき」となっている。]

