西瓜の詩(六篇) 山村暮鳥
西瓜の詩
農家のまひるは
ひつそりと
西瓜のるすばんだ
大(でつ)かい奴がごろんと一つ
座敷のまんなかにころがつてゐる
おい、泥棒がへえるぞ
わたしが西瓜だつたら
どうして噴出さずにゐられたらう
おなじく
座敷のまんなかに
西瓜が一つ
畑のつもりで
ころがつてる
びんぼうだと呍(い)ふか
おなじく
かうして一しよに
裸體(まるはだか)でごろごろ
ねころがつたりしてゐると
おまへもまた
家族のひとりだ
西瓜よ
なんとか言つたらよかんべ
おなじく
どうも不思議で
たまらない
叩かれると
西瓜め
ぽこぽこといふ
おなじく
みんな
あつまれ
あつまれ
西瓜をまんなかにして
そのまはりに
さあ、合掌しろ
おなじく
みんな
あつまれ
あつまれ
そしてぐるりと
輪を描(か)け
いま
眞二つになる西瓜だ