日光の詩 山村暮鳥
日光の詩
おお此のしみじみとした貧しさ
此のしみじみとした貧しさに
何といふ日光であらう
此の美しさは
そして妻は自分を愛して
自分は妻を愛してゐる
相愛してゐるのか
ふたりは野獸のやうに生きてゐるのだ
ふたりの間にはあかんぼと
も一人の子どもがある
辛(やつ)と一ツの巣がみつかつて
はなればなれになつてゐた
親子が一しよになり
此のしみじみとした靜かな生活をはじめたのだ
ここは海近い
松林のほとりだ
おお破れた障子の孔々から
なんといふ美しい日光であらう
[やぶちゃん注:太字「あかんぼ」は原典では傍点「ヽ」。長女玲子とともに茨城県大貫町(現在の茨城県東茨城郡大洗町大貫町。ここ(グーグル・マップ・データ))に借家住まいしていた山村暮鳥が妻富士と次女千草を呼び寄せたのは大正八(一九一九)年七月二十六日よりも後(白神正晴氏の「山村暮鳥年譜」に拠る)のことであるから、これはその直近、一家再会団欒の詠と読める。]