禿顱の圓光 山村暮鳥
禿顱の圓光
老爺は海のなつかしさに
日にいくたびとなく
いきをきらしては
砂丘にのぼり
そこから遠くの海をながめる
もう腕から力の
ぬけてしまつた老爺だけれど
日にいくたびとなく
來てみないではゐられないで
かうしてきては
蒼々とした海を眺める
それが落日の頃ででもあると
そのつるつるに禿げた頭顱が
圓光をいただいて
わけてもまぶしくみえたりする
……海にほれぬいてゐるんだ
[やぶちゃん注:本篇は刊本詩集「穀粒」にはないので、彌生書房版全詩集版を用いた。標題の「禿顱」は後の「圓光」(ゑんくわう)との響き具合から「とくろ」と音読みしておく。「はげあたま」のことでそう読むことも単に「はげ」或いは「あたま」と読むことは可能であるが、矢張り標題としては「とくろ」以外にはないと私は思う。
「頭顱」音読みでは「とうろ」であるが、ここは私は「あたま」と訓じたく思う。
本篇を以って彌生書房版全詩集版の「新編『穀粒』」は終了している。]