而も君達はめぐまれてゐる 山村暮鳥
而も君達はめぐまれてゐる
地べたはかんかんと凍り
草木をふき枯らし
都會を荒野のやうにする此の烈風はどうだ
而も君達はめぐまれてゐる
ふいてしまへばすぐ晴れるのだ
そして太陽はどんな日でもでてゐるのだ
あの雲の上
その靑空を思ふことすら
それも大きな幸福の一つでないか
其處にはいつでも君達の太陽がでてゐるのだ
太陽は君達のものだ
太陽はお互の唯一の財産だ
お互の手足の指をひきちぎる此の殘酷
砂つぼこりを蹴立ててあばれる此の霙まじりの北風はどうだ
而も君達はめぐまれてゐる
自分はいまその險惡な雲の上にでてゐる太陽をおもつてゐる
その二つとない太陽を
深い深い大海のやうなその靑空を
そして生きるためにはどんな苦痛でもぢつと耐へる君達を
ああ何といふ慘(むごた)らしい日だ
而もあの太陽を思ふだけでもお互はかがやいてくるのだ
[やぶちゃん注:本篇は刊本詩集「穀粒」にはないので、彌生書房版全詩集版を用いた。]