一枚の櫛 山村暮鳥
一枚の櫛
子どもらと茱萸(ぐみ)採りにゆき
海岸のがけつぺの
ばらやぶの中で
一枚の櫛をひろつた
二十前後のをんなのものだ
茱萸(ぐみ)は一粒もなかつた
それにしても
どうしてあんなところに櫛は落されたのだらう
それがなんとしても
不思議でならない
だから、いつまでたつても
かうしてわすれられずにゐるのだ
[やぶちゃん注:「茱萸(ぐみ)」バラ目グミ科グミ属 Elaeagnus のグミ類。ウィキの「グミ(植物)」より引く。『常緑または落葉の低木でつる性のものもある。また常緑性種は耐陰性があるが耐寒性は弱く、落葉樹性は強い。葉は互生し、葉や茎には毛が多い。また茎にはとげがある。花は両性または単性、がくは黄色で筒状、先が』四裂し、雄蕊が四本『つく。花弁はない』。『虫媒花で』『前年枝の節から伸びた新』しい『梢に開花結実する。開花後、萼筒の基部が果実を包んで肥厚し』、『核果様になる。果実は楕円形で赤く熟し、渋みと酸味、かすかな甘味があって食べられる。形はサクランボに似る。リコピンを多く含むが、種によってはタンニンを含むため、渋みが強いことがある。ときおり虫が入っていることもあるので注意が必要である』。根には放線菌門放線菌綱フランキア目フランキア科フランキア属Frankiaが共生していて、彼らが『窒素固定を行うので、海岸などのやせた土地にも育つ』。『方言名に「グイミ」がある。グイはとげのこと、ミは実のことをさし、これが縮まってグミとなったといわれる。その他に中国地方ではビービー、ブイブイ、ゴブなどとも呼ばれている』とある。
「がけつぺ」崖っ端(ぱし)。断崖(がけ)の端(へ)。公開分では類似な使用例が詩集「土の精神」の「母」の中に『懸崖(がけつぺ)』として出る。]