風景 ――加藤一夫氏におくる 山村暮鳥
風景
――加藤一夫氏におくる
畑の陸稻(をかぼ)を、もろこしを
さやから飛びだす豆粒を
でてみろ、でてみろ
木のてつぺんの
鴉めがまひ下りた
それ追へ、百姓
でてみろ、でてみろ
馬鹿に大きなお日樣が落ちさつしやるので
世界はきんいろ
おれもきんいろ
すばらしい景色だ
でてみろ、でてみろ
すばらしい景色だ
だが、まつたく
景色ぢや腹はふさがらない
[やぶちゃん注:献辞位置は原典を再現したもの。献辞された加藤一夫(明治二〇(一八八七)年~昭和二六(一九五一)年)は詩人・評論家。和歌山県生まれ。明治学院大学卒。大正六(一九一七)年に「土の叫び地の囁き」を刊行し、民衆詩派詩人として文壇に登場、大正九年にはアナーキズムを掲げる『自由人連盟』などに参加し、検挙され、後に転向して宗教に入ることを宣言、農本主義から天皇中心の思想へと変質した(ウィキの「加藤一夫」に拠る)。]