私は雪をまつてゐる 山村暮鳥
私は雪をまつてゐる
わたしとこどもと
たつた二人ぎり
わたしが枯れ草をあつめると
こどもも落葉を拾つて來る
それを堆積(つみか)さねて
火をつけた
ふすふすと寂しい煙が立つ
その煙をながめて
默つてゐる父と子と
此處は斷崖の上の草場
その下を時々けたたましい汽笛を
鳴らして汽車が行く
地上は霜でまつ白
こどもは堪へかねて
眞赤に凍(かじ)けた小さい手を
火に翳した
けれど火は燃えあがらない
こどもは寒さに顫(ふる)へてゐる
なみだぐんで
灰色の壓迫的な空を見あげて
わたしは雪を待つてゐる
ちらちら降る雪を……心の上に……
火はなかなか燃え上らない
[やぶちゃん注:本篇は刊本詩集「穀粒」にはないので、彌生書房版全詩集版を用いた。]

