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2017/04/01

ある農夫に就て   山村暮鳥 (「農夫」草稿断片?)

 

  ある農夫に就て

 

なんとなく空は險惡で

そしてくらく

ぽつぽつ雨さへおちはじめた

もう一日も終りであつた

自分はおもひだす

氷山のやうなあの山山を

鋼鐵(はがね)のやうな冬のあの日を

そこではげしく

たつたひとり

たつたひとり

大きな熊手鍬(まんのう)をふりあげふりあげて

せつせと働らいてゐたあの獸のやうな農夫を

疾驅してゐる汽車の

その窓で

自分はちらとそれをみかけた

おお、きみよ

どんなにそのころの自分がくるしんでゐたか

君はしるまい

自分が帽子をとつたことすら君はなんにもしるまいが

そのときから

自分の拳は石つころとなり

自分の頭には角が生えた

 

[やぶちゃん注:実は、この詩篇、彌生書房版全詩集版ではカットされている。それは、この詩篇が先の詩集「梢の巣にて」に載る、「農夫」という詩篇と酷似していると言ってよく、それと比較すると、明らかに未完で、これはその決定稿「農夫」の草稿断片と見做すべきものだと認識されたからではないかと私は推理する。以下に「梢の巣にて」版の「農夫」を再度、示す。

   *

 

       農夫

 

なんとなく空は險惡で

そしてくらく

ぽつぽつ雨さへおちはじめた

もう一日も終りであつた

自分はおもひだす

氷山のやうなあの山山を

鋼鐵(はがね)のやうな冬のあの日を

そこではげしく

たつたひとり

たつたひとり

大きな熊手鍬(まんのう)をふりあげふりあげて

せつせと働らいてゐた

あの獸のやうな農夫を

疾驅してゐる汽車の窓から

自分はちらとそれをみかけた

みぶるひがさつとはしつた

そのときから自分のこぶしは石となり

自分の頭上にはだれにもみえない角が生えた

そのころの自分のくるしみ

そのどんぞこから

それでも自分は帽子を脱つた

農夫はなんにもしらないのだ

けれど自分をしみじみと考へさせた

わきめもふらず

天も仰がず

荒れはてた田圃の中で

刈株の土をおこしてゐた

たつたひとりの

あの農夫

ひとりであつたあの嚴肅さ

ぽつぽつ雨さへおちてゐる記憶の上につゝ立つた

自分は強い農夫をみる

自分は強いそして獸のやうな人間を

いまもかく

 

そのころの自分のくるしみ

そのどんぞこから

それでも自分は帽子を脱つた

農夫はなんにもしらないのだ

けれど自分をしみじみと考へさせた

わきめもふらず

天も仰がず

荒れはてた田圃の中で

刈株の土をおこしてゐた

たつたひとりの

あの農夫

ひとりであつたあの嚴肅さ

ぽつぽつ雨さへおちてゐる記憶の上につゝ立つた

自分は強い農夫をみる

自分は強いそして獸のやうな人間を

いまもかく

 

   *

それでも表記の一部に違いがある以上、私は電子化すべきであると考えた。]

 

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