ある時(四篇) 山村暮鳥
ある時
まづしい一家族の
すんでゐるのは
とうもろこしの畑の中だ
蟋蟀(きりぎりす)よ
霧深いな
おなじく
森ふかく
きへいる草の
一本の細逕
をんながそこへはいつていつた
蝶がそこから舞ひだしてきた
[やぶちゃん注:「きへいる」はママ。]
おなじく
妻よ
こんな朝である
海を
掌(てのひら)にのせてみるのは
妻よ
どうだらう
あんなに澤山の小舟が
靄にかくれてでてゐたんだ
まあ、みてゐて御覽
一つ私が吹飛ばしてみせるから
おなじく
まあ、この蜻蛉(とんぼ)は
どこからあつまつてきたんだらう
こんなに──
夕凪である
そこでも戰爭(いくさ)ごつこか

