病牀の詩(八篇) 山村暮鳥
病牀の詩
朝である
一つ一つの水玉が
葉末葉末にひかつてゐる
こころをこめて
ああ、勿體なし
そのひとつびとつよ
おなじく
よくよくみると
その瞳(め)の中には
黃金(きん)の小さな阿彌陀樣が
ちらちらうつつてゐるようだ
玲子よ
千草よ
とうちやんと呼んでくれるか
自分は耻ぢる
[やぶちゃん注:「ようだ」はママ。
「玲子」山村暮鳥の長女。大正三(一九一四)年六月十八日。暮鳥没年当時は満十歳であった。]
おなじく
ああ、もつたいなし
もつたいなし
けさもまた粥をいただき
朝顏の花をながめる
妻よ
生きながらへねばならぬことを
自分ははつきりとおもふ
おなじく
ああ、もつたいなし
もつたいなし
森閑として
こぼれる松の葉
くもの巣にひつかかつた
その一つ二つよ
おなじく
ああ、もつたいなし
かうして生きてゐることの
松風よ
まひるの月よ
おなじく
ああ、もつたいなし
もつたいなし
蟋蟀(きりぎりす)よ
おまへまで
ねむらないで
この夜ふけを
わたしのために啼いてゐてくれるのか
[やぶちゃん注:最終行の二字下げは原典の再現。表記上では特異点で、彌生書房版全詩集版でも二字下げとなっている。]
おなじく
ああ、もつたいなし
もつたいなし
かうして
寢ながらにして
月をみるとは
おなじく
ああ、もつたいなし
もつたいなし
妻よ
びんぼうだからこそ
こんないい月もみられる

