ある時(六篇) 山村暮鳥
ある時
木の葉がむしられてゐる
木の葉があらしに……
それをみて自分は
自分がむしられてゐるやうに感じた
そんなことも、また
冬の眺望の一つであるか
おなじく
こどもでも
さがしまはつてゐるんぢや
あるまいか
一羽の山雀(やまがら)だ
いい聲だが
いかにもさびしく
かなしさうだ
まつたく
ゆふべのあらしときたら
めつぽうひどく強かつたからな
[やぶちゃん注:「山雀(やまがら)」スズメ目スズメ亜目シジュウカラ科シジュウカラ属ヤマガラ Parus
varius。ウィキの「ヤマガラ」によれば、全長十三~十五センチメートル。『頭部は黒い羽毛で被われ、額から頬、後頸部にかけて明色斑が入る。下嘴基部(腮)から胸部にかけて黒い帯模様が入る。尾羽の色彩は黒褐色。初列風切や次列風切の色彩は黒褐色で、羽毛の外縁(羽縁)は青みがかった灰色。雨覆や三列風切の色彩は青みがかった灰色』。『嘴の色彩は黒い。後肢の色彩は青みがかった灰色。卵は白い殻で覆われ、淡褐色や青みがかった灰色の斑点が入る』。標高千五百メートル以下の『常緑広葉樹林や落葉広葉樹林に生息する。和名は山に生息する事に由来するが、山地から平地にかけて生息する。標高』千メートル『以上の場所に生息する個体は、冬季になると標高の低い場所へ移動する。同科他種と混群を形成する事もある』。『食性は雑食で、昆虫、クモ、果実などを食べる。主に樹上で採食し夏季は主に動物質を、冬季は主に果実を食べる。堅い果実は後肢で挟み、嘴でこじ開けて中身を食べる。また樹皮などに果実を蓄える事(貯食)もある』。『樹洞に』『皿状の巣を作り』、三~六月に三~八個の『卵を産む。メスが抱卵し、抱卵期間は』十二~十四日で、『雛は孵化してから』十八~二十日で『巣立つ』。『日本では、本種専用の「ヤマガラかご」を使い』、『平安時代には飼育されていた文献が遺されている。学習能力が高い』ことから、『芸を仕込む事もでき、覚えさせた芸は江戸時代に盛んに披露された。特におみくじを引かせる芸が多く』、一九八〇年頃までは『神社の境内などの日本各地で見られた。そのため』、『年輩者には本種はおみくじを引く小鳥のイメージが強いが、おみくじ芸自体は戦後になってから流行し』、『発展してきたもので、曲芸は時代の変化とともに変遷してきた事が記録から読み取れる。しかし鳥獣保護法制定による捕獲の禁止、自然保護運動の高まり、別の愛玩鳥の流通などにより、これらの芸は次第に姿を消してゆき』、一九九〇年頃には『完全に姿を消した。このような芸をさせるために種が特定され』、『飼育されてきた歴史は日本のヤマガラ以外、世界に類例を見ない』。なお、一九四五年以降、『滅するまで代表的だったおみくじ引き以外にも』、「つるべ上げ」・「鐘つき」・「かるたとり」・「那須の与一」・「輪ぬけ芸」『があった』とある。私は幸いにして、ここに上った芸の殆んど総てを幼少の頃に見た記憶がある。]
おなじく
怒(おこ)るだけおこつてしまつて
につこりわらつたようだつて
ああ、いい
大暴風雨(おほあらし)なんかが
どこにあつたつていふんだ
どうだい
まつすぐだなあ
煙突のけむり
とにかく天までとどいてゐる
[やぶちゃん注:「ようだつて」はママ。]
おなじく
靜かな晩秋である
やみあがりの自分は
蒲團の上にきちんとすはつて
讀書してゐる
いやに冷々する日だ
こほろぎが
壁に錐でももみこむやうな
すがれた聲で啼いてゐる
おや、いつのまにか
自分のこころは
おなじく
おや、いつのまにか
自分のこころも
なんとなくうすぐらくなつた
靜かな晩秋である
ちろちろと
赤い小さな灯(ともしび)が
もうそのくらがりには
ともされてゐる
そんな氣がする
おなじく
くさむらで啼く蟲々は
音色(ねいろ)で生きてゐるのである
いや、音色がいきてゐるのである
その音色のたふとさ
そのはかなさ

