こども(十一篇) 山村暮鳥
こども
山には躑躅が
さいてゐるから
おつこちるなら
そこだらうと
子どもがいつてる
かみなり
かみなり
躑躅がいいぢやないか
[やぶちゃん注:「躑躅」「つつじ」。ツツジ目ツツジ科ツツジ属
Rhododendron のツツジ類を総称するが、ここは日本の野生ツツジの代表種で日本の野生ツツジでは分布域が最も広い、ツツジ属ヤマツツジ Rhododendron kaempfer ととりたい。]
おなじく
おや、こどもの聲がする
家のこどもの泣聲だよ
ほんとに
あんまり長閑(のどか)なので
どこかとほいとほい
お伽噺の國からでもつたはつてくるようにきこえる
いい聲だよ、ほんとに
[やぶちゃん注:「ように」はママ。]
おなじく
ぼさぼさの
生籬の上である
牡丹でもさいてゐるのかと
おもつたら
まあ、こどもが
わらつてゐたんだよう
おなじく
千草(ちぐさ)の噓つきさん
とうちやんの
おくちから
蝶々が
飛んでつた、なんて
[やぶちゃん注:「千草」山村暮鳥の次女。]
おなじく
とろとろと瞳々(めゝ)
とろけかかつたその瞳々
ねむたかろ
子どもよ
さあ林檎だ、林檎だ
まつ赤な奴だぞ
おなじく
まづしさのなかで
生ひそだつもの
すくすくと
ほんとに筍のやうだ
子どもらばかり
おなじく
こどもよ、こどもよ
燒けたら宙に放りあげろ
とうもろこしは
風で味よくしてたべろ
風で味つけ
よく嚙んでたべろ
[やぶちゃん注:「とうもろこし」はママ。]
おなじく
まんまろく
まんまろく
どうやら西瓜ほどの大きさである
だが子どもは呍(い)つた
お月さんは
美味(うま)さうでもねえなあ
おなじく
こどもはいふ
たくさん頭顱(あたま)を
叩かれたから
それで
大人(おとな)は悧巧になつたんだね
おなじく
篠竹一本つつたてて
こどもが
家のまはりを
駈けまはつてゐる
ゆふやけだ
ゆふやけだ
[やぶちゃん注:「篠竹」笹(根笹)の別称。植物学的には被子植物門単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科タケ連Bambuseae(広義。但し、単系統でないことが判明し、現在、分割案が提起されている)の中の、小形の竹の通俗の総称。]
おなじく
こどもが
なき、なき
かへつてきたよ
どうしたのかときいたら
風めに
ころばされたんだつて
おう、よしよし
こんどとうちやんがとつつかまへて
ひどい目にあはせてやるから
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