田園風景 山村暮鳥
田園風景
石つころを嚙み嚙み
がらがら、がらがら
がた馬草が
とほつていつたよ
がた馬車には
どこかのおばあさんと
その孫らしい
赤いてがらの娘つ子とが
のつてゐただよ
あんまりゆれるだで
二つの首が
ゆらりくらりと
まるで首ふり人形のやうであつたよ
なんといつてものう
あれでははなしどころか
くちをあけて
わらふことさえ
まんぞくにはできないだんべ
どつちをみても
ひろいひろい麥圃(むぎばたけ)と
あいかはらずの蒼空だ
それから
どこまでもどこまでもつづいてゐる
このでこぼこの
すなつぽこりの
曲りくねつた一本の田舍道さ
なにもかもみんな
どうせ、すぐまたぐつすりと
ねこんでしまふにきまつてゐるだあ
まあ、まあ
なんて美味(うま)さうな馬糞(まぐそ)だんべ
ほかほかとけむりがたつて
それはさうと
がらから、がらがら
石つころを嚙み嚙み
とほつていつたがた馬車は
おや、もうどこかへ
手品のやうに
みえなくなつてしまつたよう
[やぶちゃん注:「わらふことさえ」「あいかはらず」はママ。
「てがら」想起される映像から推して「手絡(てがら)」で丸髷(まるまげ)などの根元に掛ける飾りの巾(きれ)のことであろう。色模様に染めた縮緬(ちりめん)などを使う。
彌生書房版全詩集版。
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田園風景
石つころを嚙み嚙み
がらがら、がらがら
がた馬草が
とほつていつたよ
がた馬車には
どこかのおばあさんと
その孫らしい
赤いてがらの娘つ子とが
のつてゐただよ
あんまりゆれるだで
二つの首が
ゆらりくらりと
まるで首ふり人形のやうであつたよ
なんといつてものう
あれでははなしどころか
くちをあけて
わらふことさへ
まんぞくにはできないだんべ
どつちをみても
ひろいひろい麥圃(むぎばたけ)と
あひかはらずの蒼空だ
それから
どこまでもどこまでもつづいてゐる
このでこぼこの
すなつぽこりの
曲りくねつた一本の田舍道さ
なにもかもみんな
どうせ、すぐまたぐつすりと
ねこんでしまふにきまつてゐるだあ
まあ、まあ
なんて美味(うま)さうな馬糞(まぐそ)だんべ
ほかほかとけむりがたつて
それはさうと
がらから、がらがら
石つころを嚙み嚙み
とほつていつたがた馬車は
おや、もうどこかへ
手品のやうに
みえなくなつてしまつたよう
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