手 山村暮鳥
手
赭土色の手ぶくろの中にわが友の手はある
手ぶくろのやぶれた個所から見えるその手はまつ黑だ
溝渠のやうな掌の線(すぢ)はふかく肉に喰ひ込んで罅割れ
――血さへ滲んでゐると言ふ
而もにぎりしめれば石となる
これが人間の手であるか
手ぶくろの中を想像するだに自分は耐らなくなる
そして若も自分が娘つ子であつたらと思ふ
自分は男でありながら
此の百姓の子の大きな土だらけの手を崇敬する
ああ其の手にも冬が來た
いまは赭土色の汚ない手ぶくろの中ですこしほかしはじめたか
雪はその手にふりかかり
芒はその手で刈り取られた
[やぶちゃん注:本篇は刊本詩集「穀粒」にはないので、彌生書房版全詩集版を用いた。]

