飴賣爺 山村暮鳥
飴賣爺
あめうり爺さん
ちんから
ちんから
草鞋脚絆で
何といふせわしさうな
[やぶちゃん注:「せわしそうな」の「わ」「そ」はママ。]
おなじく
朝はやくから
ちんから
ちんから
あめうり爺さん
まさか飴を賣るのに
生まれてきたのでもあるまいが
なぜか、そうばかり
おもはれてならない
[やぶちゃん注:「そう」はママ。]
おなじく
あめうり爺さん
あんたはわたしが
七つ八つのそのころも
やつぱり
そうしたとしよりで
鉦(かね)を叩いて
飴を賣つてた
[やぶちゃん注:「そうした」はママ。]
おなじく
じいつと鉦を聽きながら
あめうり爺さんの
脊中にとまつて
ああ、一塊(ひとかたまり)の蠅は
どこまでついてゆくんだらう