悲壯な風景 山村暮鳥
悲壯な風景
みろ
大暴風の蹶ちらした世界を
此のさつぱりした慘酷(むごたら)しさを
骸骨のやうになつた木のてつぺんにとまつて
きりきり百舌鳥がさけんでゐる
けろりとした小春日和
けろりとはれた此の靑空よ
此のひろびろとした靑空をあふいで恥ぢろ
大暴風が汝等のあたまの上を過ぐる時
汝等は何をしてゐた
その大暴風が汝等に呼びさまさうとしたのは何か
汝等はしらない
汝等の中にふかく睡つてゐるものを
そして汝等はおそれおののき兩手で耳をおさへてゐた
なんといふみぐるしさだ
人間であることをわすれてあつたか
人間であるからに恥ぢよと
けろりとはれ
あたらしく痛痛しいほどさつぱりとした靑空
その下で汝等はもうあらしも何も打ちわすれて
ごろごろと地上に落ちて轉つてゐる果實
泥だらけの靑い果實をひろつてゐる
おお靑空!
あかんぼの目のやうな此の空!
[やぶちゃん注:本詩篇は彌生書房版全詩集版ではカットされている。これは先行する詩集「風は草木にささやいた」の「Ⅶ」の「或る風景」と相同に近い詩篇だからであろう。しかし、完全相同ではなく、表記以外にもコーダに有意な相違が認められる以上、私は電子化するべきであると思う。「或る風景」は以下である。
*
或る風景
みろ
大暴風の蹶ちらした世界を
此のさつぱりした慘酷(むごた)らしさを
骸骨のやうになつた木のてつぺんにとまつて
きりきり百舌鳥(もず)がさけんでゐる
けろりとした小春日和
けろりとはれた此の蒼空よ
此のひろびろとした蒼空をあふいで耻ぢろ
大暴風が汝等のあたまの上を過ぐる時
汝等は何をしてゐた
その大暴風が汝等に呼びさまさうとしたのは何か
汝等はしらない
汝等の中にふかく睡つてゐるものを
そして汝等はおそれおののき兩手で耳をおさへてゐた
なんといふみぐるしさだ
人間であることをわすれてあつたか
人間であるからに恥ぢよと
けろりとはれ
あたらしく痛痛しいほどさつぱりとした蒼空
その下で汝等はもうあらしも何も打ちわすれて
ごろごろと地上に落ちて轉つてゐる果實(きのみ)
泥だらけの靑い果實をひろつてゐる
おお此の蒼空!
*]

