太陽が見てゐる 山村暮鳥
太陽が見てゐる
其處此處に大きな工場ができ
林のやうに煙突が立ち
その煤烟で
そらはまつ暗だ
げれど太陽は何もかもぢつと見てゐる
わたしらの先祖の墓場はどうなつてしまふことか
風をならす空中の電線
土龍の穴を橫切る瓦斯管
ここにわたしらは生きてゐる
そしてわたしらは餓ゑてゐる
ここでは人間よりも機械が寵愛されてゐるのだ
みろその機械にこきつかはれて
息もたえだえに喘いでゐる人間どものその蒼ざめた顏いろを
かうして此等の村々に殖えるのは
老人と野良犬と
それから醜い女ッ子と
乞食も何處へか行つてしまつた
まつたく雀や鴉ですら餌のないところにはゐられないのだ
而もそれすら歎くものもないのだ
ああ、何といふ怖しい世界だ
けふもけふとて人間をよく轢き殺すあの汽車めはながながと汽笛を鳴らし
大きな地響きを立てていくたびも此處を上下した
ああ着飾つてそれに乘つた人月
ああそして滅びながらもその血を吸はれるこころよさに
うつつなく眠りに橫はッた此の村々
それにひきかへて都會は日に日にでぶでぶと肥えたりのさばりかへつて
重々しく牙をとがらせ
村々の上に猛獸のやうにのしかかるのだ
その結局はどうなるか
いくら都會が榮えやうともそれは木で言ふたらば花々だ
根である村々が枯死してしまへばどうなるとおもふか
ああ、火花をちらす刹那の
歡樂
ああ、火花をちらす刹那の
歡樂
それだ、それだ
ひとびとの求めてゐるのは
何もかも太陽がみてゐる
赭土の瘦せた小さい穀物畠
そこに動いてゐるものは何か
その畝と畝との間にそれをさがしだせ
注意せよ
口はあれど啞のやう
耳はあれど聾者のやう
目はあるけれどもめくらのやう
ゆはず、語らず、見ず、聞かず
一念ひたすら鍬を手にして
われとわが食ふ穀物を作る農夫を
そして思へ
人間にとつて偉大なるものは砲彈ではない
それは樫の木のやうな腕であることを
またそれは金貨でもない
それは鐵の齒をもつてゐるやうな胃ぶくろであることを
地上一切萬物の上に
太陽はかがやき
ぢつと
農夫をながめてゐる
[やぶちゃん注:本篇は刊本詩集「穀粒」にはないので、彌生書房版全詩集版を用いた。]

