譚海 卷之二 飛州笹魚の事
飛州笹魚の事
○飛驒國に笹魚(ささうを)といふもの有(あり)、竹に實(み)の如きもの細長く出來(いできた)る形そのまゝの魚也。水邊の竹に生じたる實は、水に落(おち)て年をふれば生化(しやうげ)して魚となり、流(ながれ)に遡るといふ。明和五年友人今井氏持參したるを見るに、竹に付たる實よく魚のかたちに似たり。
[やぶちゃん注:これは尋常な竹や笹の実ではなく、竹・笹類に生じた虫癭(ちゅうえい・虫瘤(むしこぶ)・英語gall(ゴール))である。恐らくは、有翅昆虫亜綱新翅下綱内翅上目双翅(ハエ)目長角亜目ケバエ下目キノコバエ上科タマバエ科ササウオタマバエ(笹魚玉蠅)Hasegawaia
sasacola の幼虫が形成するそれである。ササ類の側芽に長さ四~四十センチメートルにも及ぶ筍(たけのこ)に似た虫癭を作る。平凡社の「世界大百科事典」によれば、この虫癭は江戸時代から笹魚として知られており、この「笹魚」にはひとりでに谷川に落ちて岩魚(いわな)となるとする伝説があり、橘南谿の「東遊記」や木村蒹葭堂の「蒹葭堂雑録」などにもその記述が見られ、また、飛騨国第七代代官であった長谷川忠崇はこの伝説に疑問を持ち、その構造を調べ、骨も肉もなく焼いても魚の臭気のないことを確かめた上で『是れ竹の病ならん』と「飛州志」(延享二(一七四五)年頃成立)の中に記している、とある。yoas23氏のブログ「四季彩日記」の「笹魚(ささうお)」の写真が凄い(気持ち悪くはないが、インパクトは強いのでクリックは自己責任で)。これなら水に入って魚となるというのは、頗る腑に落ちるわい! 他に、サイト「北海道の虫えい(虫こぶ)図鑑」の「ササウオフシ」のページは学術記載もしっかりしており、何より、驚かずに済む写真があるので、まずはこちらの閲覧をお薦めする。ホンマ! これは筍でんがな!
「明和五年」一七六八年。]
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