二つの力 山村暮鳥
二つの力
なんといふ殘酷なことだ
しかしまた何といふ壯麗なことだ
野中に突立つてゐる一本の大木
それを押し倒さうと
それをめがけてのしかかる颶風
この猛獸のやうな吠えやうはどうだ
大木がその颶風を跳ねかへす此の力強さはどうだ
ああ何といふ壯麗なことだ
そしてまたこれは何といふ人間的なことだ
屈するな
おれが見てゐる
[やぶちゃん注:本篇は刊本詩集「穀粒」にはないので、彌生書房版全詩集版を用いた。
「颶風」は通常は「ぐふう」で、強く激しい風及び熱帯低気圧や温帯低気圧に伴う暴風をいう古い気象用語であるが、暮鳥はこれで「たいふう」(颱風)と読ませているように思われる。]