春 山村暮鳥
春
ほんのりとかすみをこめて
もうそのなかで
はやい燕をさえづらせてゐる空
麥畑の畝々をこえ
とほくの村から
こどもらの麥笛をさそひ
大工がひやうしをとつて棟木を打つ
重々しいどんよりとした大槌の音がきこえる
なんといふのどかさだらう
またにんげんの
あたらしい巣ができるか
にんげんはその巣で
妻を娶り
こをうみ
こをそだて
父母をここから
墓場へ葬(おく)りだすのだ
おおはるよ
どんな草木もあをあをと
めをふきはなをさかせてゐるのに
自分はかなしい
野獸のやうにおそれず強く生きようとする自分だ
而もなんとなく………
[やぶちゃん注:「さえづらせて」はママ。彌生書房版全詩集版では最終行のリーダはない。]

