自分の詩 山村暮鳥
自分の詩
――房州にて――
飯がすむと
すぐ食卓は机になる
ぐづぐづ茶碗をつついてゐる子どもらはせきたてられて
食卓は机にかはる
めしつぶだらけのそのうへには
あたらしい原稿紙が延べられ
その上をペンがはしる
時には
どうしてもペンのうごかぬこともある
かうして自分の詩はかかれるのだ
また或る時には
詩がかきあげられぬので
なかなか机は食卓とならず
家族が酷くお腹をすかすことさへある
かうして自分の詩はかかれるのだ
けれどみよ
今日といふ今日はその上に
善い友からの薔薇がうつくしく飾られてゐる
かうして自分の詩はかかれるのだ
おお此の深いいのちをこめて
ひとびとの手にかほり
しみじみとよまれろ、拙い詩
[やぶちゃん注:ここから原典では『――大正八・九年頃』と注する「4」パートに入る。詩篇本文冒頭の添え辞で判るように茨城に転居後の詩篇である。添え辞「――房州にて――」の位置は原典通り。彌生書房版全詩集版では詩題「自分の詩」の左に添えてある。]

