雪について 山村暮鳥
雪について
朝
おきてみたら
おもひもかけない
雪、雪、雪
飛びだして朝餉もおもはず
凍(かぢ)けた手に
いきをふきかけ
いきをふきかけ
おほよろこびの子どもら
そしてたちまち消えてなくなる
雪だるまをこしらへる
雪兎をこしらへる
妻よ
自分達も子どもにかへつて
どうだい、何か
神樣でもこしらへてみようではないか
×
妻は言ふ
――雪つて
なんといふ溫かで
幸福さうなものなんでせう
×
子どもたちは
自分でこしらへた雪だるまに
小さな掌をあはせて
それを
おもしろがつて禮拜(をが)んだ
學校からかへるまで
きえないでゐておくれ、と
自分達のそのねがひが
どんなにかなへてやりたかつたか
おう、いまはあとかたもなきもの
その雪だるまよ
わが子の落膽をおもひうかべながら
まざまざとめのまへで
おまへに瘦せられ
とろけてゆかれるそれをみるのは
なんとしてもたまらなかつた
けれどどうしようもなかつた
それはあまりに麗(よ)い日であつた
[やぶちゃん注:「凍(かぢ)けた手に」「禮拜(をが)んだ」のルビ「かぢ」「をが」は孰れもママ。
*
雪について
朝
おきてみたら
おもひもかけない
雪、雪、雪
飛びだして朝餉もおもはず
凍(かじ)けた手に
いきをふきかけ
いきをふきかけ
おほよろこびの子どもら
そしてたちまち消えてなくなる
雪だるまをこしらへる
雪兎をこしらへる
妻よ
自分達も子どもにかへつて
どうだい、何か
神樣でもこしらへてみようではないか
*
妻は言ふ
――雪つて
なんといふ溫かで
幸福さうなものなんでせう
*
子どもたちは
自分でこしらへた雪だるまに
小さな掌をあはせて
それを
おもしろがつて禮拜(おが)んだ
學校からかへるまで
きえないでゐておくれ、と
自分達のそのねがひが
どんなにかなへてやりたかつたか
おう、いまはあとかたもなきもの
その雪だるまよ
わが子の落膽をおもひうかべながら
まざまざとめのまへで
おまへに瘦せられ
とろけてゆかれるそれをみるのは
なんとしてもたまらなかつた
けれどどうしようもなかつた
それはあまりに麗(よ)い日であつた
*]