山の麓をゆく汽車 山村暮鳥
山の麓をゆく汽車
のろのろと汽車がゆく
ここは山のふもと
あたり一めんのなのはな
まへうしろでさえづるひばり
そのなかをのろのろと
汽車はゆく
その汽車のあとからついて行くわたしの幻想よ
鰌は泥田にみをかくした
それを捕らうとしてゐた子どもは腹を立て
小石をひろひ
汽車をめがけて投げつけた
それをみてだるさうな
汽車は汽笛をふき鳴らした
この汽車はどこへゆくのか知れたものか
なんといふながいれえるだ
[やぶちゃん注:太字「れえる」は原典では傍点「ヽ」。「まへうしろでさえづるひばり」の「さえづる」はママ。
「鰌は泥田にみをかくした」は実は原典では「鱒は泥田にみをかくした」となっている。しかし、「子ども」が「それを捕らうとしてゐた」がそいつは素早く「泥田にみをかくした」とすれば、これ、とても「鱒」【ます:条鰭綱原棘鰭上目サケ目サケ科 Salmonidae に属する魚類の内で和名・和名異名に「マス」が附く多くの魚、或いは、本邦で一般に「サケ」類(サケ/鮭/シロザケ:サケ科サケ属サケ Oncorhynchus keta)・ベニザケ(サケ亜科タイヘイヨウサケ属ベニザケ[本邦ではベニザケの陸封型の「ヒメマス」が択捉島・阿寒湖及びチミケップ湖《網走管内網走郡津別町字沼沢》)に自然分布している]Oncorhynchus
nerka)・マスノスケ(=キング・サーモン:サケ亜科タイヘイヨウサケ属マスノスケ Oncorhynchus tschawytscha)など)と呼ばれる魚以外のサケ科の魚(但し、この場合、前者の定義とは「ヒメマス」「マスノスケ」などは矛盾することになる)を纏めた総称。「マス」・「トラウト」ともにサケ類の陸封型の魚類及び降海する前の型の魚を指すことが多い。主にイワナ(サケ科イワナ属 Salvelinus)・ヤマメ(サケ亜科タイヘイヨウサケ属サクラマス亜種ヤマメ(サクラマス)Oncorhynchus
masou masou)・アマゴ(タイヘイヨウサケ属サクラマス亜種サツキマス Oncorhynchus masou ishikawae)・ニジマス(タイヘイヨウサケ属ニジマス Oncorhynchus mykiss)などが「マス」類と呼ばれる】の一種とは思われない。彌生書房版全詩集版を見ると、ここは「鰌」(どじやう(どじょう):条鰭綱骨鰾上目コイ目ドジョウ科ドジョウ属ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus 及びドジョウ科 Cobitidae のドジョウ類)となっているので、特異的にかく訂した。]

