赤い林檎(十四篇) 山村暮鳥
赤い林檎
林檎をしみじみみてゐると
だんだん自分も林檎になる
おなじく
ほら、ころがつた
赤い林檎がころがつた
な!
噓噓噓
その噓がいいぢやないか
おなじく
おや、おや
ほんとにころげでた
地震だ
地震だ
赤い林檎が逃げだした
りんごだつて
地震はきらひなんだよう、きつと
おなじく
林檎はどこにをかれても
うれしそうにまつ赤で
ころころと
ころがされても
怒りもせず
うれしさに
いよいよ
まつ赤に光りだす
それがさびしい
[やぶちゃん注:「をかれても」と「うれしそうに」はママ。]
おなじく
娘達よ
さあ、にらめつこをしてごらん
このまつ赤な林檎と
おなじく
くちつけ
くちつけ
林檎をおそれろ
林檎にほれろ
おなじく
こどもよ
こどもよ
赤い林檎をたべたら
お美味(いし)かつたと
いつてやりな
おなじく
どうしたらこれが憎めるか
このまつ赤な林檎が………
[やぶちゃん注:彌生書房版全詩集版ではリーダは六点。]
おなじく
林檎はびくともしやしない
そのままくさつてしまへばとて
おなじく
ふみつぶされたら
ふみつぶされたところで
光つてゐる林檎さ
おなじく
こどもはいふ
赤い林檎のゆめをみたと
いいゆめをみたもんだな
ほんとにいい
いつまでも
わすれないがいいよ
大人(おとな)になつてしまへば
もう二どと
そんないい夢は見られないんだ
おなじく
りんごあげよう
轉がせ
子どもよ
おまへころころ
林檎もころころ
おなじく
さびしい林檎と
遊んでおやり
おう、おう、よい子
おなじく
林檎といつしよに
ねんねしたからだよ
それで
わたしの頰つぺも
すこし赤くなつたの
きつと、そうだよ
[やぶちゃん注:「そうだよ」はママ。]

