譚海 卷之二 角力・儒者・講釋師・諸藝の師匠等の徒口論上訴に及ぶ時むづかしき事
角力・儒者・講釋師・諸藝の師匠等の徒口論上訴に及ぶ時むづかしき事
○角力(すまひ)・儒者・講釋師、諸藝の師匠等、都(すべ)て四民の外(ほか)無商賣にて遊食の徒(と)は、何ぞ口論上訴等に及(およぶ)事あるときは、上(うえ)の御さばき甚(はなはだ)むづかしきもの也と、ある人のかたりし。
[やぶちゃん注:この「むづかし」は「面倒である・厄介である」の謂いであろう。ここに出る者の内、芸能者(辻相撲師・講釈師・諸芸の師匠連・四民から外れた無商売の遊食の徒(輩(やから))は、ある意味、どちらかというと、風狂の世界に遊んだり、ホカイビトの血を引く被差別者に近いグループであったが故に、彼らがいざこざを起こしたり、公訴に及んだりすると、常法や判例法で簡単にケリをつけることが逆に難しいのであろう。前の「遊女屋郭内にて家屋敷買調へがたき掟の事」を受けての一条と読める。さすれば、やはり、前の条の奉行所の十把一絡げの證文処理は、そうした「むづかし」いことをなるべく事前に防ぐ目的、戦略だったのだと読めるように思われるのである。また、「儒者」「講釋師」「諸藝の師匠」は前の私の謂いとは別に、役人もたじたじになるほどに弁舌や屁理屈や揚げ足取りがまっこと上手そうで、如何にも体制側に安穏として息を吸っている官僚連中が嫌がりそうな手合いではないか。]
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