首を吊るなら此の木でだ 山村暮鳥
首を吊るなら此の木でだ
わたしのすきな巴旦杏の木
私はその下かげにしばらく立つてしみじみかんがへてゐる
ああ巴旦杏の木にわたしを痙攣(ひきつ)ける
首を吊るなら此の木でだ
いまこそ花のさかりもすぎたが
寡婦(やもめ)のやうなその花はなほもわたしを誘惑する
足もとのカメリヤの吸ひ殼
それがさみしくけぶつてゐる
ああどうしてこんなに此の木はわたしをなぐさめるか
[やぶちゃん注:「巴旦杏」は「はたんきよう(はたんきょう)」と読む。これは本来はバラ目バラ科サクラ属ヘントウPrunus
dulcis、所謂、「アーモンド」のことを言う。しかし、ロケーションが合わない。実は中国から所謂、「スモモ」が入って来てから(奈良時代と推測される)、本邦では「李」以外に「牡丹杏(ぼたんきょう)」・「巴旦杏(はたんきょう)」という字がそれに当てられてきた。従って、ここではバラ目バラ科サクラ属スモモ(トガリスモモ)Prunus
salicina の意でこれを用いていると考えるのが妥当であると私は考える。そうしてそれによって本詩篇が三~四月の詠であることが判るのである。グーグル画像検索「スモモの花」をリンクさせておく。見ているうちに首をくくりたくなっても私の責任では、ない。
「カメリヤ」明治から戦前にかけての国産口付き煙草の銘柄。「CAMELLA」。]

