なぎさで網を引いてゐる 山村暮鳥
なぎさで網を引いてゐる
なぎさで網を引いてゐる
みろ、のんきさうにひいてゐるな
をとこたちがひいてゐる
をんなたちもひいてゐる
こどもらもそれにまぢつて
みんなでひいてゐる
網はみえない
おい、網を引いてゐるのかえ
海を
つなで
ひつぱつてゐるやうにみえるな
のんきさうに、おい
蒼空(あをぞら)のやうな海を
ひつぱつてゐるやうにみえるな
[やぶちゃん注:本詩篇は彌生書房版全詩集版ではカットされている。それは詩集「梢の巣にて」の「春」の草稿と判断されるからであろう。しかし、一部に有意な表現の違いが認められるので私は電子化した。決定稿と思われる「春」も煩を厭わず再掲しておく。
*
春
なぎさで網を引いてゐる
みろ、のんきさうにひいてゐるではないか
をとこたちがひいてゐる
をんなたちもひいてゐる
こどもらもそれにまじつて
みんなでひいてゐる
ぼんやりとねむさうだな
網はみえない
おい、網を引いてゐるのかい
海を
つなで
ながいつなで
ひきよせてゐるやうにみえるな
ゆめのなかで、おい
蒼空のやうな海を
ひきよせてゐるやうにみえるな
*]