萩原朔太郎 くづれる肉體 (初出形)
くづれる肉體
蝙蝠のむらがつてゐる野原の中で
わたしはくづれてゆく肉體(にくたい)の柱をながめた
それは宵闇にさびしくふるえて
影にそよぐ死(しに)びと草のやうになまぐさく
ぞろぞろと䖧蟲の這ふ腐肉のやうに醜くかつた
ああこの影をひく景色の中で
わたしの靈魂はむづがゆい恐怖をつかむ
それは港からきた船のやうに 遠く亡靈のゐる島々を渡つてきた
それは風でもない 雨でもない
そのすべては愛欲のなやみにまつはる暗い恐れだ
さうして蛇つかひの吹く鈍い音色に
わたしのくづれてゆく影がさびしく泣いた
[やぶちゃん注:大正一一(一九二二)年六月号『詩聖』初出。歴史的仮名遣の誤り及び「䖧蟲」はママ。詩集「靑猫」(大正十二年一月新潮社刊)所収の際には、以下のように手が加えられている。
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くづれる肉體
蝙蝠のむらがつてゐる野原の中で
わたしはくづれてゆく肉體の柱(はしら)をながめた
それは宵闇にさびしくふるへて
影にそよぐ死(しに)びと草(ぐさ)のやうになまぐさく
ぞろぞろと蛆蟲の這ふ腐肉のやうに醜くかつた。
ああこの影を曳く景色のなかで
わたしの靈魂はむずがゆい恐怖をつかむ
それは港からきた船のやうに 遠く亡靈のゐる島島を渡つてきた
それは風でもない 雨でもない
そのすべては愛欲のなやみにまつはる暗い恐れだ
さうして蛇つかひの吹く鈍い音色に
わたしのくづれてゆく影がさびしく泣いた。
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