タルコフスキイと逢う夢
僕は修学旅行の引率で[やぶちゃん注:この設定が如何にもしょぼいが仕方がない。]ロシアに行く――
そうして、あの「鏡」の故郷の家を訪れる――
そこにアンドレイと妹のマリーナが待っている――
僕は感激のあまり、言葉も出ない――というより、ロシア語も出来ず、頭に浮かぶ片言に組み立てられた英語の文字列が全く僕自身の感動を伝えていないことに絶望的になって――言葉が出ない――
アンドレイはただ黙って私を見つめている――
そのあの例の鋭い眼は
「――何でもよい――思いを語れ――」
と命じている――
僕は絶望的に発すべき言葉が吃って出てこない――[やぶちゃん注:これはまさに「鏡」のプロローグのあの青年のようだ!]
そんな僕の心を察した僕のすぐ横に座っているマリーナが――突如――僕を抱きしめ、キスをする――
アンドレイはそれを見て初めて笑ってうなずく……
*
モスクワ空港――
私は小さな紙切れにマリアに宛てて
「あなたの兄アンドレイは1986年12月29日に亡くなります」
と懸命に辞書を引きながら、ロシア語で綴って、泣きながらポストに投函した……
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