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2017/05/15

萩原朔太郎 憂欝の川邊 (初出形)

 

 憂欝の川邊

 

川邊で鳴つてゐる

芦(よし)や葦(あし)のさやさやといふ音はさびしい

しぜんに生えてゐる

するどい ちひさな植物 草本の莖の類はさびしい

私は眼を閉ぢて

なにかの草の根をかまふとする

なにかの草の汁を吸ふために、憂愁の苦い汁を吸ふために

げにそこにはなにごとの希望もない

生活はただ無意味な幽欝の連なりだ

梅雨だ

じめじめとした雨の点滴のやうなものだ

しかし ああ また雨 雨 雨

そこには生える不思議の草本

あまたの悲しい羽虫の類

それは憂欝に這ひまはる岸邊にそうて這ひまはる

じめじめとした川の岸邊を行くものは

ああこの 光るいのちの葬列か

光る精神の病靈か

物みなしぜんに腐れゆく岸邊の草から

雨に光る木材質のはげしきにほひ。

 

[やぶちゃん注:大正七(一九一八)年四月号『感情』初出。歴史的仮名遣の誤り及び「幽欝」「点」「虫」はママ。詩集「靑猫」(大正十二年一月新潮社刊)所収の際には、以下のように手が加えられている。大きな変更は終りから二行目であるが、以降の詩集類ではこれ総て「草むら」であるから、これは初出の誤植の可能性が高いとも言えるが、断定は出来ぬ。なお、最後の詩集となる昭和一四(一九三九)年九月創元社刊の「宿命」でのみ、終りから三行目の「精神」に「こころ」とルビされる大きな改変がなされてある。底本は昭和五一(一九七六)年筑摩書房刊「萩原朔太郎全集 第九卷」を用いた。

   *

 

 憂鬱の川邊

 

川邊で鳴つてゐる

蘆や葦のさやさやといふ音はさびしい

しぜんに生えてる

するどい ちひさな植物 草本(さうほん)の莖の類はさびしい

私は眼を閉ぢて

なにかの草の根を嚙まうとする

なにかの草の汁をすふために 憂愁の苦い汁をすふために

げにそこにはなにごとの希望もない

生活はただ無意味な憂鬱の連なりだ

梅雨だ

じめじめとした雨の點滴のやうなものだ

しかし ああ また雨! 雨! 雨!

そこには生える不思議の草本

あまたの悲しい羽蟲の類

それは憂鬱に這ひまはる 岸邊にそうて這ひまはる

じめじめとした川の岸邊を行くものは

ああこの光るいのちの葬列か

光る精神の病靈か

物みなしぜんに腐れゆく岸邊の草むら

雨に光る木材質のはげしき匂ひ。 

 

   *] 

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