夢二題
一昨日の夢――
H高校の体育館で独り「ゴルトベルグ変奏曲」を弾いているグレン・グールドが、アリアを弾き終わると、振りかえって、たった独りで聴いている僕を呼んだ。
「第一変奏を弾くのだ。」
と彼は僕に言う。
「それから最終変奏もね。それが君の『運命』さ。」
と言い添える。そうして夢の中で僕はグールドと二人で全曲を弾き上げた。聴衆は誰もいない…………
*
今朝方の夢――
夕暮れである。M高校の小さな方の職員室の中央の大きな机に僕は蒲団を敷いて氷囊を乗せて寝ている。僕は何か重い熱病に罹っているようだ。
大きな職員室から母が入って来て、
「直史――土筆を採ってきて。土筆ご飯を作るから――」
と言う。
『アリスを散歩させながら採りに行こう……でも、もう今は土筆は終わってしまってるし……』
と、ぼぅとした頭で考えていると、6時のチャイムが聴こえた。
「……母さん……学校はもうじき、自動警備に入るから帰らなくてはいけないんだよ……」
母は
「土筆ご飯……作れないわねぇ……」
と淋しそうに言った。
僕も淋しかった…………
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