甲子夜話卷之四 8 佐州金山の奇事
4-8 佐州金山の奇事
或人曰。佐渡金堀の穴の水かひ人足に往くは、皆微罪ある者どもなり。其中歸府して今當地に居ものあり。其語しとて聞く。佐渡の金穴、地中に堀下ること凡十四五里程なり。其間縱橫に岐路ありて、其下に一道を通ず。其行くこと數里なるべしと。計るに海底に入ること尤深く、又其奧は、越後の地方の地底に堀及ぶべき里程なりと。
■やぶちゃんの呟き
本文の三箇所の「堀」は佐総てママ。なお、佐渡金山の坑道の総延長は現在、約四百キロメートルに及ぶが、海底下までは掘られていないし、無論、本土まで届いてなどはいない。ただ、この最後の「越後の地方の地底に堀及ぶべき里程なり」というのは延べの採掘総延長距離を指していようだから、佐渡と本土は三十キロメートルほどしか離れていないから、実はおかしくはないと言える。
「金堀」底本では編者により『かなほり』とある。しかし標題は明らかに「金山(きんざん)」であろう。後の「金穴」は「かなあな」と読むのか? 私は「きんざん」「きんほり」「きんけつ」の方がしっくりくるのだが。
「水かひ」坑道に湧き出る地下水を掻き出す労役であろう。
「其中」「そのうち」。
「居もの」「をるもの」。
「語し」「かたりし」。
「十四五里」五十五~五十九キロメートル弱。この深さは誇大に過ぎる。現在の調査では約八百メートルである。