甲子夜話卷之四 12 白熊
4-12 白熊
下野を領する御旗本衆の村長、白熊の子を捕て養置しが、今年三歳なりとて、その地頭の屋敷に持來れるを見し人の物語に、大さは狗の大ぶりなるほどなり。總體純白にて、月の輪計黑毛なりとなり。
■やぶちゃんの呟き
食肉目イヌ型亜目クマ下目クマ小目クマ科クマ属ツキノワグマ Ursus thibetanus のアルビノと考えてよいと思うが、その場合、胸部の三日月形或いはV字形の白い斑紋部(正常個体でもこれがない個体もいる)だけが逆に黒いというのは嘘臭いというか、嘘である。或いは飼い主が墨塗りしたんではあるまいか? なお、ツキノワグマのアルビノは実際に本邦にいる!。例えば、個人ブログ「クマにあいたい☆」の「ミナシロ」によれば、『ミナシロとは、全身真っ白なツキノワグマでミナグロ(全身真っ黒)と一緒で胸に月の輪がなく、マタギの間では 神の使いとして伝えられていて、絶対に獲ってはならないとされている』とあり、『実際、ミナシロはツキノワグマのアルビノ個体らしいのだ』が、『全国的にも珍しいこのクマが、岩手県の北上山系では』百年以上前から『ちょくちょく目撃されて』いると記す。実際に、その剥製が「遠野市民センター」に現存するとあって、ブログ主はそれに逢いに行った。現在は『傷みがひどいので』十年ほど『前から展示してないらし』いが(当該記事は二〇〇七年八月二十四日投稿のもの)、学芸員の案内で特別に『収蔵室に連れて行って』貰い、現物を見た(記事中に写真有り!)。記されたデータによれば、このアルビノ個体は昭和四五(一九八〇)年五月二十八日に『遠野市の国道で捕獲』されたもので、♀で推定三歳、捕獲時の体重は五十五キログラムとある。『当時の関係者はこれをツキノワグマだと思わなかったそうで、剥製業者も北極グマのように仕立ててしまったらし』いという(学芸員の談話)。『日焼けして毛が黄色くなってしまったけれど、月の輪は確かに無い。ツメも真っ白。目と鼻はピンクだった』と観察を記しておられる。また学芸員によれば、『岩手県内にあと』二体の『ミナシロの剥製があるらしく』、『一つは住田町の公民館という噂で』、『もう一つは県立博物館に保管されているらしい』とある。しかし、『これまでちょくちょく目撃例のあったミナシロ君』も『最近は目撃されてない』らしいともある。さらに、『アルビノ個体は遺伝子異常によるものとされている』が、『なぜ北上山系に多いのかという理由』として、『奥羽山系と隔絶された立地条件により個体群の近親交配などによるものではないかと言われて』いたと記し、「『それが、近頃目撃されないってコトは』『生態系が回復しているってこと?』『だったらいいんだけど』……」と期待を述べられた上、平成一二(二〇〇〇)年の『農林水産省の調査では』『奥羽山系と北上山系のツキノワグマでは骨格の作りが違うことがわかって』おり、『分析の結果によると奥羽のクマは北上に比べて①上あごや鼻骨が長くて②上あごの幅や両目の感覚は短いという傾向があるらしい』という情報も与えて呉れた。感謝!
しかし、嬉しいことに! 今も「ミナシロ」はいるらしいぞ! サイト「信州ツキノワグマ研究会」(このサイト自体が必読!)の中の、岩手大学大学院連合農学研究科の斉藤正恵氏の「白いけもの考(3)~<特別寄稿>しろいツキノワグマ「パンダ」のご紹介~」(リンク先に茨城県自然博物館の「クマの企画展(熊~森のアンブレラ種~)」に展示された剥製写真有り!)によると(二〇〇八年十二月十八日の記事)、冒頭から、『岩手県の北上高地で行動追跡を行なっているアルビノのツキノワグマについてご紹介します』と始まるからだ! そこで語られているアルビノ個体は二〇〇二年『生まれのようです。それからクマ関係者による捕獲作戦が始まり』、二〇〇四年『の夏にようやく捕獲されました。捕獲してくれたハンターの菊地さんは、パンチメタル式の捕獲ワナのなかにいる背中は黒く腹が白い動物を見て、思わず「パンダだ!」と叫んだそうです。そんなことからこの白いクマは「パンダ」と名づけられました。パンダはメスで』、体重は三十五キログラムほどで、『この個体はとてもおっとりとした性格のようで、人が近づいてもそれほど威嚇もせず、ワナの中で仰向けになって寝たり、でんぐり返しをしていました。そのせいで背中だけ真っ黒になっていたのでしょうか。パンダの目は赤く、鼻や肌のほか肉球はピンク色で、典型的なアルビノ個体の特徴を有していました。あの特有のクマ臭さもなく、ダニなどもほとんどついていませんでした』とあり、『電波発信機をつけて放獣し、パンダの行動追跡が始まりました。私が以前追跡していたメス個体と同様に、パンダは捕獲された集落付近のいわゆる里山で一年中生活していました』。そうして、二年後の二〇〇六年の初夏に再びこの「パンダ」が再捕獲された、とあるのである。『あの得意のでんぐり返しで私たちを出迎えてくれました。パンダの体重は』四十二キログラム『になっており、この年に出産した形跡が見受けられたものの』、『すでに乳は出ませんでした。子供はどうしてしまったのでしょうか・・。現在、この個体の追跡は後輩が行なっていますが、パンダは今も北上高地の里山で暮らしています』とあるのである! また、『ところで余談ですが、北上高地ではこれまで数頭のアルビノ個体が確認されています。過去の新聞をみると、狩猟された白いツキノワグマとその黒いコグマの写真が掲載されています。また、県内の博物館にはアルビノ個体の剥製も所蔵されています。ところが』、『剥製職人さんがホッキョクグマと勘違いしたらしく、ちょっとツキノワグマらしからぬ姿になっています』とある。以下、二〇〇三年五月十日附『岩手日報』朝刊の『岩手の白いクマが遺伝子調査』という記事が示されてある。以下、その記事。『岩手県内の北上山地では過去約』四十年間で六例も『白いクマが確認され、非常に頻度が高い。これらのツキノワグマは、色素を作ることができない遺伝子を両親から受け継いだアルビノ固体(白子体)と考えられる。同じ岩手県内でも奥羽山系では白いクマは確認されておらず、全国的にもほとんど例がない。岩手県内のツキノワグマの推定生息数は約』千『頭にすぎないので、北上山地でのアルビノ固体の頻度は非常に高い。盛岡市厨川の独立行政法人森林総合研究所東北支所は、「生息地が分断されている」、「奥羽山地など他のクマとの交流が無くなった」等によって、近親交配の可能性があると推測、遺伝子調査を始めることになった。県内各地で保存されている「白いクマ」の剥製の体毛や頭骨などからデオキシリボ核酸(DNA)を抽出し、アルビノ個体の確認、近親交配の有無などを分析する予定』とある(下線やぶちゃん)。「ミナシロ」よ! 永遠なれ!!!
「村長」「むらをさ」。
「捕て」「とりて」。
「養置しが」「やしなひおきしが」。
「今年三歳なり」捕獲から三年であるから三歳以上と考えるべきである。なお、ネット上の情報では、ツキノワグマの平均寿命は野生状態で二十四年、飼育下では三十三年生きた個体もいるとする。
「狗」「いぬ」。
「總體」「さうたい」。全身。
「計」「ばかり」。
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