甲子夜話卷之四 15 同人、竜紋を上下に始て着せし事
4―15 同人、竜紋を上下に始て着せし事
竜紋を麻上下の代りに用ることも、左近始められしと云。一日着して德廟の御前に供せらる。そのとき左近の上下は何なるやと御尋なり。是は龍紋にて候。家來へとらせ候へば、麻より保よきとて悦候と申上らる。夫より世の中竜紋の上下を用始めしと云。
■やぶちゃんの呟き
「同人」「左近」引き続き、前話の主人公松平乗邑(のりさと)のこと。彼は左近衛将監であった。
「竜紋」「りゆうもん(りゅうもん)」は「竜門」「流紋(りうもん(りゅうもん)」などとも書き、絹の平織物の一種。羽二重に似るが、やや厚手で、江戸時代、帯・袴・羽織・裃などに用いられた。武士の裃にそれを用いた濫觴は乗邑だと静山は記すのである。
「上下」「かみしも」。裃。
「德廟」吉宗。
「家來へとらせ候へば、麻より保よきとて悦候」乗邑はまず、竜紋の裃を作らせて家臣に下賜して、具合を見た。すると麻よりも「保」(もち)がよい(厚地であるから擦り切れにくいという謂いか)、とって「悦候」(よろこびさふらふ)であったから、彼もそれを着用したというのであろう。
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