譚海 卷之二 濃州養老の瀧神社黃金竹の事
○美濃養老の瀧の邊に神社あり。その社(やしろ)のうしろに黃金竹(こがねたけ)といふもの年々二本づつ叢生す。壹年限かぎり)にて枯(かる)る、黃金の色にして異竹也。他所に移し植れども生ずる事なし、江戸へも持來(もちきた)りしを見しに、誠に其ことのごとし。
[やぶちゃん注:「美濃養老の瀧」現在の岐阜県養老郡養老町にある落差三十二メートル、幅四メートルの瀧。鎌倉時代の「十訓抄」の「第六」の「忠直を存ずべき事」
の第十八話にある「養老の孝子」や、同期の「古今著聞集」の「卷八」に載る「孝行恩愛 第十」等に記される瀧水が酒になったという親孝行奇譚の古伝承などでよく知られる。
「神社」養老神社。ここ(グーグル・マップ・データ)。養老の滝の四百メートルほど下流の左岸に位置する。
「黃金竹(こがねたけ)」読みは日文研の「怪異・妖怪伝承データベース」の「黄金竹」に拠った。同記載は本「譚海」のこの記載を原出処とする。なお、現在、黄金竹なる和名を持つ竹は実在する。単子葉植物綱イネ目イネ科タケ亜科マダケ属マダケ Phyllostachys bambusoidesの品種であるオウゴンチクPhyllostachys
bambusoides f. holochrysa である。「竹図鑑」の同種の解説によれば(リンク先に写真有り)、『マダケの黄金型』で、稈(かん:竹の中空になっている茎部分の植物学上の呼称)が黄色を呈し、『緑の縦縞が不規則に入る場合もある』。但し、現在、この竹が同地のみに特異的に植生しているなどということは確認出来なかった(ネット検索で掛かってこない)。画像を見る限り、黄金というほどのことはなく、寧ろ、普通に乾燥させた竹の色に似ているように私には見える。
「誠に其ことのごとし」事実、その噂通り、根づかなかったというのである。しかもその枯れたものを津村は実際に見たと言っている。植物の実見談として前の萩譚などとやはり連関した記載と言える。]