譚海 卷之二 伯州丈次郎岩の事
伯州丈次郎岩の事
○中國の北の海邊の方言に坂をたをと云(いひ)、きのこをなはと云(いふ)。四十里たをといふ處(ところ)伯州(はくしう)の内にあり、三坂也。又(また)丈次郎岩といふあり、高さ二三丈程あり、その下(した)蜂(はち)の巣の如く穴明(あき)たり。往來の人くゞり通る、出雲より石見へ通ふ北海也。
[やぶちゃん注:「たを」「日本国語大辞典」に「たお(歴史的仮名遣:たを)」、漢字の「撓」を当て、『①山頂の道のあるところ。峠』とし、『②山と山とのくぼまっているところ。鞍部』とした上で、方言の二番目(一番目は鞍部のそれ)として『山の峠』を挙げ、兵庫県・鳥取県・石見・山口県などの中国地方を採集地としている。「坂」の方言とはしないものの、「山の峠」は同時に「坂」である。
「なは」「日本国語大辞典」には「なば」と濁音で載り、『「きのこ(茸)」の異名』と明記した上で方言として『①きのこの笠』(島根県)、『②きくらげ(木耳)』(福岡県)、『③まつたけ(松茸)』(奈良県と広島県)、『④きのこ類の総称』(中国及び九州・石見・広島県・山口県及び九州各地)を挙げており、中国地方から南に広く分布することが示されてある。
「四十里たをといふ處伯州の内にあり、三坂也」「伯州」は伯耆国で現在の鳥取県中部及び西部域であるから、これは「三坂」と地名(坂名?)からは現在の鳥取県西伯郡大山町今在家(大山の西北)にある三坂峠が候補としてまず挙げられる。「峠データベース」のこちらで位置が確認出来る。しかし、最初の「四十里」坂(たお)の名を重視するならば、鳥取県日野郡日野町と岡山県真庭郡新庄村との間にある「四十曲峠(しじゅうまがりとうげ)」というのも気になってくる。上記の三坂峠の別称には「四十里峠」というのは見当たらないことと、「里」は草書の「曲」の字と誤読とも思われなくもないからである。なお、伯耆国ではないが、同じ中国地方の島根県邑智郡邑南町と広島県山県郡北広島町を結ぶ峠に「三坂峠(みさかだお)」という峠が存在することも付記しておきたい。
「丈次郎岩」不詳。識者の御教授を乞う。島根県益田市匹見町道川下道川下に丈次郎城という城があったらしいが(城跡として残る)、ここは「出雲より石見へ通ふ北海」ではない山家であるから違う。
「二三丈」約六~九メートル。]

