毛利梅園「梅園介譜」 蝦蛄 / シャコ
「漳州府志(しやうしふふし)」及び「開元遺事」・「草木子」に載す。
蝦蛄【「シヤコ」。「シヤクヱビ」。俗に「シヤクナゲ」とも云ふ。「ヤマメ」。】
壬辰(みづのえたつ)蠟月廿三日、眞寫す。
[やぶちゃん注:画像は国立国会図書館デジタルコレクションの「梅園介譜」のこの画像からトリミングした(右側にアミ(と称するもの)の一部、下部に「クルマエビ」の一部と「青蝦」のキャプションがあるが、これらは本図(本種)とは無関係である)。これは本邦のシャコの博物画としては超弩級に優れていると私は思う(特に尾部の描写)。翻刻では恣意的に句点と送り仮名を補った。
節足動物門 Arthropoda 甲殻亜門 Crustacea 軟甲綱 Malacostraca トゲエビ亜綱 Hoplocarida口脚目 Stomatopoda シャコ上科 Squilloidea シャコ科 Squillidae シャコ属 Oratosquilla シャコOratosquilla oratoria
である。異名は梅園の挙げた他にも、「シャク」「シャッパ」「ゼニヨミ」「ガサエビ」などがある(「ヤマメ」というのは聴いたことがないが、推測するにこれは「山蠆(やまめ)」で、こちらは、蜻蛉の幼虫のヤゴの異名であり、だとするなら、何となく腑に落ちる)。私は甲殻類では、生態観察するのも、食べるのも、特異的(私は実はエビ・カニはそれほど食指は動かないのである)に好きな種の一つである。
「漳州府志」(しょうしゅうふし)原型は明代の文人で福建省漳州府龍渓県(現在の福建省竜海市)出身の張燮(ちょうしょう 一五七四年~一六四〇年)が著したものであるが、その後、各時代に改稿され、ここのそれは清乾隆帝の代に成立した現在の福建省南東部に位置する漳州市一帯の地誌を指すものと思われる。同書の「介之屬」に『蝦姑【如蜈蚣而大。能食蝦、謂之蝦姑。】』とある。
「開元遺事」「開元天寶遺事」のこと。盛唐の栄華を伝える遺聞を集めた書で、王仁裕撰。後唐の荘宗の時、秦州節度判官となった彼が長安に於いて民間の故事を採集、百五十九条に纏めたものとする。但し、同書を中文サイトで縦覧したが、記載は見当たらなかった。
「草木子」(そうぼくし)は元末明初の学者葉子奇の随筆。元代の諸制度や元末明初の事件風聞、北宋期の儒者邵雍(しょうよう)の自然思想に基づく天文・地理・生物などに関する記録などを載せる。同書の「卷之四下」に『蝦姑。狀若蜈蚣。管蝦。』と出る。
「壬辰蠟月」「廿三日」「壬辰」は天保三年で、「蠟月」は陰暦十二月の異称であるから、これは西暦では一八三三年の一月十日(同年旧暦十二月朔日)以降となる。シャコは食材としては仲春から夏であるが、寿命は概ね三年であり、生後二年目で成熟する。]
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