フォト

カテゴリー

The Picture of Dorian Gray

  • Sans Souci
    畢竟惨めなる自身の肖像

Alice's Adventures in Wonderland

  • ふぅむ♡
    僕の三女アリスのアルバム

忘れ得ぬ人々:写真版

  • 縄文の母子像 後影
    ブログ・カテゴリの「忘れ得ぬ人々」の写真版

Exlibris Puer Eternus

  • 20250201_082049
    僕が立ち止まって振り向いた君のArt

SCULPTING IN TIME

  • 熊野波速玉大社牛王符
    写真帖とコレクションから

Pierre Bonnard Histoires Naturelles

  • 樹々の一家   Une famille d'arbres
    Jules Renard “Histoires Naturelles”の Pierre Bonnard に拠る全挿絵 岸田国士訳本文は以下 http://yab.o.oo7.jp/haku.html

僕の視線の中のCaspar David Friedrich

  • 海辺の月の出(部分)
    1996年ドイツにて撮影

シリエトク日記写真版

  • 地の涯の岬
    2010年8月1日~5日の知床旅情(2010年8月8日~16日のブログ「シリエトク日記」他全18篇を参照されたい)

氷國絶佳瀧篇

  • Gullfoss
    2008年8月9日~18日のアイスランド瀧紀行(2008年8月19日~21日のブログ「氷國絶佳」全11篇を参照されたい)

Air de Tasmania

  • タスマニアの幸せなコバヤシチヨジ
    2007年12月23~30日 タスマニアにて (2008年1月1日及び2日のブログ「タスマニア紀行」全8篇を参照されたい)

僕の見た三丁目の夕日

  • blog-2007-7-29
    遠き日の僕の絵日記から

サイト増設コンテンツ及びブログ掲載の特異点テクスト等一覧(2008年1月以降)

無料ブログはココログ

« 北越奇談 巻之四 怪談 其四(初夢怪) | トップページ | 北越奇談 巻之四 怪談 其六(夜釜焚) »

2017/08/25

北越奇談 巻之四 怪談 其五(飯を食われる怪)

 

    其五

 

 地藏堂の西、圓淨湖の邊(ほとり)、七ケ村(しちかむら)と云へる所あり。農夫某(それがし)なる者、秋の半(なかば)過(すぐ)る頃ならん、ある夜(よ)、家人(けにん)、皆、寢(いね)て、獨り、燈(ともしび)の下(もと)に繩を糾(あざ)なへ居(ゐ)けるが、夜、いたく更(ふけ)て、窓にばらばらと雨の一しきりかゝる音を聞く。其後(そのあと)、寂寥(せきりやう)と物凄くなり、終(つゐ)に繩を捨て置き、閨(ねや)に入(いり)て臥しけるが、翌日(あくるひ)早く起出(おきいで)て見るに、その邊(あた)りに、見も馴れざる木(こ)の葉、靑黄(しようわう)、打混(うちま)じりて一箕(み)ばかり有(あり)。如何なるわざとも知ることなし。

 時に其(その)婦(ふ)、飯(いゐ)を炊(かし)ぎ終はりて、家内(かない)打寄(うちより)、食(くらは)んとするに、釜中(ふちう)、飯(はん)、巳に、空(むな)し。家人、驚け共(ども)、其(その)食(しよく)したる者を知らず。

 それよりして、飯(めし)を炊(た)きて、如何にもよく匿(かく)し覆ふと雖も、忽(たちまち)、喰(くら)ひ盡くして、無し。

 如何なるものの成すわざとも目に見ることなければ、力、不ㇾ及(およばず)。

 如ㇾ此(かくのごとく)なること、數日(すじつ)、家にありて食すること、不ㇾ能(あたはず)。

 依之(これによつて)、家内(やうち)、皆、外(ほか)に移り、空屋(あきや)にして、歸らざること、一月餘り。後(のち)、立歸(たちかへ)りて、飯(いゐ)を炊(かし)ぐに、其怪、巳に去りて、元のごとし。如何なるものか、木葉(このは)に駕(か)し來りて、人の食を貪りけん。不思義と云ふも、猶、餘りあり。

 

[やぶちゃん注:前夜の雰囲気と状況証拠から天狗の仕業と思われるから、やはり先行する条々との親和性が窺える。

「地藏堂の西、圓淨湖の邊(ほとり)、七ケ村(しちかむら)」現在は円上寺と書き、その「円上潟」は大方が埋め立てられて現存しないが、附近(グーグル・マップ・データ)。この一帯は、現在、西北の新潟県長岡市寺泊円上寺を始めとした長岡市の寺泊地区、及び、中央付近が新潟県燕市真木山になるのであるが、野島出版脚注に「七ケ村」は『蛇塚村・中曾根村・北曾根村・川崎村・東山村・辯才天村・京ケ入村を云う。明治前は村上領』とあり、地図をよく見ると、「寺泊蛇塚」・「寺泊中曾根」・「寺泊川崎」・「寺泊弁才天」・「寺泊京ケ入」といった地名を現認出来る。「地藏堂」は地名で、大河津分水路の対岸の、現在の新潟県燕市中央地蔵堂である((グーグル・マップ・データ))。に南東を除いて丘陵に囲まれた盆地があり、この話柄のロケーションとしてはしっくりくる。

「寂寥(せきりやう)と」何とも言えず、もの淋しくて。

「見も馴れざる木(こ)の葉、靑黄(しようわう)」今まで見たこともない形の、青葉や黄葉した木の葉。う~む! 如何にも天狗の来訪じゃて!

「一箕(み)」穀類を煽って篩(ふる)い、殻や塵(ごみ)を除く箕一盛り分。

ばかり有(あり)。如何なるわざとも知ることなし。

「不思義」原典のママ。]

« 北越奇談 巻之四 怪談 其四(初夢怪) | トップページ | 北越奇談 巻之四 怪談 其六(夜釜焚) »